明治時代、東北を舞台に熊さんを狩って生活を営む男の富治さんが主人公です。狩猟の現場がこと細かく、読み進めるほどに雪の匂いがし、雪を踏みしめる音が聞こえそうで、本当に狩猟を経験した人が書いているみたいな臨場感です。著者の膨大な下調べの手間を感じました。

  • 畏怖と敬意についてちょっと思った


全編を通じてテーマとなっているのは、森(自然界に)に神様はいるのか?ということですが、この辺はナウシカぽいなーと思いました。主人公は美少女ではなく富治というリアリティー溢れる男性ですが、富治の中では一応美しい形で完結を見せます。だけど「敬意」と「畏怖」の線引きが最後まではっきりとせず、そのあたりは読み手に委ねられているなぁと思いました。畏怖と敬意というのは人間が混同しやすいものだと思います。そこの線引きが明確に書かれたものを紹介できるといいのですが、著者と著書名をすぐ忘れてしまうのでなにもご紹介できません。ごめん。


ところで呪詛に則って生きている人たちの話は本当に切ないものがあるなぁと思います。何かに畏怖を感じるというのは、良い面と悪い面を併せ持っているよなぁと。例えば呪い(まじない)というのは、信仰と紙一重で、信仰を持っていると思っている人が実際は呪詛に塗れていたり、呪詛と信仰の区別が曖昧な人がいたりするよなーって思うときがあります。そこに物語が生まれるんだなぁと。私も歌詞を書くときにテーマにしたことがありますし、そのことを扱った歌詞もたくさんありますね。なにか紹介できるといいのですが、曲名をすぐ忘れてしまうのでなにもご紹介できません。ごめん。


で、まぁ、その呪いの世界からおれは抜け出した!おれはロジカルにリアルに生きている!と思っている人の中にも、敬意も一緒に忘れてきたんかなと思う人もいます。こういう人はそれに気がつかない限り、一生を棒に振ることになります。それが良いとか悪いとかではなく、敬意のない人はそういうことになるよーというのを案外知らない賢い人は多いし、賢い人が仕事に恵まれないととても辛いということも知ってるし、年を経るごとにそういうことを誰からも言われなくなってしまう可能性はとっても高いのでちょっと書いてみました。

  • ヒリヒリした生き方とモテ論


人や動物の生死を描くものは大好きです。なぜかというと、生死を前にすると生き物は鋭くなりますし、その鋭い様はやっぱりかっこええのです。この時代、そういうヒリヒリしたことは少ないので、変な意味じゃなくもっとみんな刺すか刺されるかを体験した方がいいと思います。*1


はっきり申し上げて、ヒリヒリした男はモテます。ヒリヒリした現場にいると人間は種を残そうという意識が働くのでそんな人はとても魅力的に見えるものです。でも人間というものはすごいもので、多くの人はそれがよくわかっていて、知らずに擬似ヒリヒリを摂取していたりします。ゲームであったり、物語であったり、映画であったり。なにが言いたいのかと申しますと、それが白シャツにいい具合に包まれているともうたまらないということです。


話を戻しますと、恋愛模様や男女の心理もとても良く描かれていて、特に一人の男をめぐって、女同士が正座で向き合うシーンなどはリアリティーがあり、とても良かった。そこに当事者の男が為すすべなくちんまりと座っている様もそうそう、男ってこういうとき、こんな感じ!って思った!もっとやれやれー!

  • 富山の薬売りで思い出した


ついったにも書きましたが、文中に富山の薬売りの話が出てきます。熊の胆を買い取る薬屋です。実は数年前まで、家には富山の薬売りが来ていました。母も亡き父も新潟出身で、富山の薬売りが来るとなんだか旧友を迎えているような感じでした。遠くから足を運ぶ薬売りさんもそれがわかっていたのだと思います。父と薬屋の閑談の様子はとても和やかであったかかった。


ドラッグストアが乱立し、父が亡くなって、母が富山の薬売りに「もうお断りしたいのですが」と言ったときのことすごくよく覚えています。私はいろんなセールスを断るときにセールスマンが見せるような態度を予想していましたが、まったく格好を崩さずに今までの取引の礼を言い、他のなんの感情も見えませんでした。父との閑談の様子を思い出すと、今でもそこには何か大切なものがあったなぁと思います。


で、この本の最後、参考文献のところに「富山の薬売り_マーケティングの先駆者たち」とあって、そうだよなー、マーケティングって、そういうことだよなと改めて思ったり。

  • で、この本どうだったのよ。

まとまらない文章でしたが、とても面白かったです。中盤に入ってからは久しぶりに読むのが止まらないという体験をしました。ノルまでは聞きなれない言葉も多いし、少しダルいかもしれませんが、かなり面白いですよー。

邂逅の森 (文春文庫)

邂逅の森 (文春文庫)


dramovies 氏のコメント欄で知人の方がオススメされていました。ありがとですー!
http://blog.livedoor.jp/dramovies/

*1:中二病紙一重なので注意が必要です。