歌詞を本気で書き始めてから、二年程経ちました。お陰さまで、いくつかの採用をいただきました。これは、私にとって、とても嬉しい体験でした。想像していたような嬉しさを遥かに上回る体験でした。私は、腐ってもクリエイターなので、無駄に想像力豊かだと自負しているのですが、ほんとうに想像していなかったような嬉しさに見舞われ、何度も、本当に何度も、嬉しさや感動で涙ぽろぽろでした。

同時に、いくつかお問い合わせなどいただき、作詞家になりたいと思っていらっしゃる方が多いことも知りました。自身もまだまだ勉強中ではあるのですが、ポップスの歌詞について今まで考えてきたことなどを書いてハードルを上げてみたいと思います。自分の考えの整理のためにもアウトプットするのが一番だなぁと思いますので、作詞家志望の方は、しばしお付き合いの程!

ポップスの作詞家になるためには

作家事務所やレーベルにお世話になることです!私は、作曲家(兼プロデューサー的なもの)になりたくて、ある事務所に曲を送ったのですが、たまたま、作詞がいいと思うよと言っていただき、作曲の時間がなかなか取れないことから、しばらく作詞に力を入れていました。

問題は、

・作詞だけを募集しているレーベルは少ない
・歌詞だけを募集している作家事務所も少ない

ということでしょうか(苦笑)。 しかし、ないわけではありませんので、作詞家志望の方はリサーチして、どんどんアプローチすれば良いと思います。イレギュラーケースとして、秋元氏は脚本家からのスタートですし、仮歌さん(作曲家の作るデモに仮歌を入れるアルバイトさん)からのスタート、というのもあります。

スタート地点に立てたなら、まずは肝に銘じておきましょう。

作詞家は書きたいものを書く仕事ではありません。

基本的にポップスはコンペ(全国からたくさんの曲、歌詞を募集してそこから選ぶ)からのスタートです。コンペはメロ先が9.9割で、事務所やレーベルの傾向はあるとは言っても、様々なジャンルに対応していくこととなります。そのたくさんのジャンルに対応する力をどうやって身につけていくのか、今日はそれを書きたいと思います。

1.コピーライト的な思考アプローチ

これを一番に持ってきたことには理由があります。作詞は、書きたいものを書くのではない、ということを一番理解できるのは、この感覚を身につけるのが一番だと思うからです。

コピーライトというのは、商品としての特性をアピールすることです。極端な話、そこに「自分」はいらないのです。てめえが、今なにを考えてようが、ハッピーであろうが、凹んでようが、関係ないんです。「今」「頂いたこの曲で」「締め切りまでに」「求められるもの」を書けなければ採用がない、それだけのお話なのです。

のっけから殺伐としてしまいましたが、ポップスの場合、商品としての特性は、楽曲だけではありません。アーティストの個性も特性のうちに入ります。アーティストは人ですから、当然、特性が喜怒哀楽を含む「想い」であることも多くあります。この場合、主人公に想いを乗せなければなりません。しかし、あくまでも「想いをぶちまける」のではなく「想いをのせる」です。てめえの想いとかどうでもいいんです。そのアーティストが言葉にしたときに、光る言葉を選ぶのです。そのアーティストのファンの方達にどういう言葉だと伝わるのかを考え抜くのです。

この感覚を身につけるための一番の近道は、コピーライト系の本だと思います。これ系の本はたくさん出版されておりますので、アンテナを張って良書に多く触れてみてください。私は良書をちょっぴり知っておりますし、同じ事務所にお世話になっている方には懇切丁寧に教えたりするのですが、見ず知らずの方だと、ここからは有料です。うへへ。


2.言葉の響きを重視するアプローチ

「洋楽とK-POPに学ぶ、歌詞における言葉の響きアプローチ」というタイトルで一冊書けそうな勢いですが、今日は短く行きます。主に二点。

どんなアプローチでも、メロを解釈するのは大前提ですが、言葉の響きを重視するアプローチでは、まず「童心を持てるかどうか」が大切です。響きがかわいい、かっこいい、ひっかかる。その言葉を言ってみると楽しくて何度も口にしてしまう、などは日常を余裕を持って過ごし、人の発する言葉に関心を向けていなければ理解できないことだと思うのです。例えば、子供が面白がって口にする言葉に関心が持てるかどうか。「ガ」という一音が持つイメージから「パ」という一音が持つイメージから、楽しんで広げていけるかどうか。忙しい現代人ですが、何事も少しの余裕を持って臨みたいものです。

もう一つは「自分で歌ってみる」ことができるかどうか。歌ってみないとわからないことは、ほんとうにたくさんあると思います。曲を頂いたとき、この曲では言葉の響きが重要だな!と思ったら、かならず歌ってみること。歌ってみること、ただそれだけで、たくさん得るものがあると思います♪

3.叙情的なニュアンス重視アプローチ

叙情的なニュアンスの歌詞を求められるケースでは、叙情的なメロが上がってくる可能性が高いです。

歌詞もご自分で書かれる「アーティスト」と呼ばれる方たちは、このアプローチがお上手な方が多いと思います。自分がなにを感じたか、いつも心にメモしている。揺れるコスモスを見たときに、なにを感じるのか、ネットで「氏ね」と書いてあるのを見たときに、なにを思うのか。アーティストと呼ばれる方たちは、日頃からこの感覚が常に研ぎ澄まされている。立ち止まってしばらく考えることが、「癖」になっている。繊細ではっとする表現。誰もがいつも感じてはいるけど、言葉にできないようなこと、それらを見事に表現されます。自分を切り出すような大変な作業ですが、サクッと書いてしまえば、現在は商業作詞家にもその能力が求められます。私は性格的に少々合理的なところがあり、これに関しては勉強中ですので、どうやったら上手になるのか、どなたかご存知ならまじ教えて欲しい。

4.世界観アプローチ

これは、ヒット映画を連想していただくとわかりやすいかと思います。シナリオがあり、俳優の身振り手振りまで演出され、ライティングや小道具の細部まで一つのコンセプトに沿って、精密に作りこまれた世界。この世界を短い歌詞の中で、どう言葉にしていくか。

叙情的なニュアンスアプローチと決定的に違う点は、メロも含めた「アレンジ(音色)の持つ世界観を理解できるかどうか」だと思います。映画のバリエーションを思い起こしてみてください。ホラーにはホラーの音色があるのです。アクションにはアクションの音色がありますし、ユーモアにはユーモアの音色があるのです。

また、自分で世界観を持つことも大切だと思います。どのくらいの深さで、広さで、バリエーション(いわゆる引き出しですね)で世界観をもてるのか。これは、日頃の映画観賞や読書の質量、実際に出会う方(とのコミュニケーションの質量)によって左右されると思います。その世界感に深度や奥行きがあるのかどうか=どれだけ深くコミットできるかも重要だと思います。

このアプローチに近道はありません。映画をたくさん観ても、小説をたくさん読んでも、人とたくさんお会いしても、人は、自分の感度の深さでしか物事を受け取れないからです。あなたに良い出会いがあることを祈ります。ナムナム。やだ、拝んじゃったわ。

5.視覚に訴える

さてさて、今から書く二つのシーンを想像してみてください。

「好きって書いてメール送信した」

「震える手で好きと綴り 目を閉じて送信ボタンを押した」

色や匂いが付いているのはどちらでしょうか。

更に書けば・・・クールに攻めるケースだと

「タッチパネルに指を滑らせ」

でもいいでしょうし、切実な想いを伝えるなら

「次の電車を待つ間 気持ちを抑えられなくて」

なんかを付け足しても、いいかもです。

聴いている人にわかりやすい、伝わりやすいのはもちろんなのですが「その場面が見えるようだ」となれば、レーベルや事務所の選曲の時点でシングル候補になるかもしれません。理由は簡単、絵が見える=映像の作り手さんのモチベーションを支えるものだからです。

但し、映画のタイアップ曲などはこの限りではありません。もう絵が出来てるので、あとは、想いだけを書いてもらえれば、みたいなこともあるかもです。そして、コピーライト的、言葉の響き重視なインパクト曲もこの限りではありません。短い言葉でいかにリスナーに連想させるかという試みもありますし、ライブ重視のアーティストだと、掛け声的なフレーズもあるかもしれません。掛け声というのは、不思議なもので、短ければ短いほど、訴求効果がある。というわけで、臨機応変に書いてみましょう。

6.ストーリーが見える歌詞にする

これに関しては、私もお勉強中であまり明るくないのですが、気が付いたことだけ。

「短い時間で起こったことをどう伝えるか」みたいな試みは面白いと思います。「この曲を聴いていると映画のワンシーンを見ているようだ」と人が言うときには(そのシーンを含む映画の前後を想像できるようだ)が含まれるのです。こういった歌詞が書けると、リスナーは3分そこらの短い曲を聴いただけなのに、映画を一本観たような充足感を味わうと思います。

上達には、ストーリテーリングやシナリオの本を読んでみるといいかもです。残念ながら、私も欲しい本が高価だったりするので、未読が多く、本のオススメができません。ちょほ。印税で購入できるようにがんばります!

複合です。

以上、6点、わかりやすく、一つ一つ書いてみましたが、上記のどれかのアプローチにあてはまると思っても、それだけじゃおなかがすくわ。

例えば、コンペの現場では、コピーライト的な歌詞を書いても、本職が代理店勤務のコピーライターだった方には負けるかもしれないわけです。東大文一卒とか元小説家がコンペに参戦していれば、ストーリー性では敵わないかもしれない。作曲家志望だった方や、元アーティスト、歌い手さんなどがコンペに参戦していれば、言葉の響きでは敵わない可能性が大です。すげー大変かもしれませんが、いくつかのアプローチの複合で攻めましょう。ファイティ〜ン。

共通事項

どんな作詞にもすることなのですが、メロを聴いて一番肝だと思われる箇所には、一番インパクトのある言葉をぶつけます。

デッサンを習った方がこのブログの読者にどれだけいらっしゃるか謎ですが、あえてデッサンを例に取りますと、デッサンでは一番明るいところと一番暗いところを意識して描きます。明るめの色調だけのところに更に明るい色を持ってきても一番明るいところはあまり目立ちません。インパクトのある部分を作ったなら、必ず、影の部分の言葉を作りましょう。ストーリーのある歌詞を書くときには、デッサンと同じく、言葉(シーン)にもコントラストをつけてみましょう。言葉の響きを重視する案件だと、パキッとした言葉をサビに持ってきたなら、後の箇所はもやっとした響きの言葉を選らんだ方がサビが際立ちます。

戦略

視座を高く書いて見ますと、SMエンタテイメントに学ぶなら、言葉の響きだけでも、世界に通用するような歌詞を、映像にしたときにかっこいい歌詞を(世界観アプローチ)といったところでしょうか。ドメの場合、マスメディアを中核として、まだガラパゴス的な部分も大きいので、CM,ドラマ、映画のタイアップにウエイトが置かれています。その場合、コピーライト的な要素と、言葉の響き、また、アーティストとしてのカラー(叙情的なアプローチ)が重要になると思います。

個人的には、夢があるほうで!って思うの。そう書いちゃうと、戦略もなにもあったもんじゃないけど、わくわくして書くのが好きだから。

最後に

方法論なんて読むもんじゃないぞ気をつけろ。

わはは。

私は教えることにはあまり興味がないし、これで儲けようとも思ってない、そして、ものすごく誠実な人間ですので(!)書いちゃいますけど、方法論なんて読んでも、なかなか身につかないんだよ。

そうそう、作曲を始めてからしばらくして、古典的な理論書を読んだりしたのですが、大体知っていることばかりでした。自分で考えることの大切さがすごくよくわかった。なので、折角検索してここにたどり着いた方には大変申し訳ないのですが、今読んだことは全部忘れて、目の前の案件に集中するのが、一番いいと思います。わはは。

そうそう。明日は9nineさんがHEY!×3に出演、なんと「too blue」を披露してくださるそうな!まじ泣ける。

今から作曲作業です!がんばります!